少数民族(しょうすうみんぞく)とは、中国政府が規定した漢民族(漢族)以外の少数民族政策による分類における民族。
中国政府は、民族区域自治という少数民族政策を取っている。国民を、漢族と55の「少数民族」とに区分し、その民族ごとに集住地域を「区域自治」の領域として指定した。そこでは、「民族の文字・言語を使用する権利」、「一定の財産の管理権」「一定規模の警察・民兵部隊の組織権」「区域内で通用する単行法令の制定権」などを行う事を認めている。国民を構成する諸集団が、どの「民族」に帰属するかを法的に確定させる行政手続きを、民族識別工作といい、清代から民国期にかけて伝統的に「五族」とされてきた民族数は、この手続きにより56にまで増加した。
中国残留日本人孤児などに由来する日系、香港・マカオの返還にともない中国の国民となった英国系、ポルトガル系は、少数民族としては扱われていない。
少数民族が多く住む省級の行政単位である「自治区」は「内モンゴル自治区」「広西チワン族自治区」「チベット自治区」「新疆ウイグル自治区」「寧夏回族自治区」の5自治区がある。
少数民族一覧
- アチャン族(阿昌族)
- イ族(彝族)
- ウイグル族(維吾爾族)
- ウズベク族(烏孜別克族)
- エヴェンキ族(鄂温克族、オウンク族)
- オロチョン族(鄂倫春族)
- 回族(ホイ族、フイ族)
- カザフ族(哈薩克族、ハザク族)
- キルギス族(柯尔克孜族、クルグズ族)
- 高山族
- コーラオ族(仡佬族)
- サラ族(撒拉族)
- ジーヌオ族(基诺族)
- シェ族(畲族)
- シボ族(錫伯族、シベ族)
- ジン族(京族、越族、ベトナム族)
- スイ族(水族)
- タジク族(塔吉克族)
- タタール族(塔塔尔族)
- タイ族(傣族、ダイ族)
- ダウール族(達斡尔族)
- チベット族(蔵族)
- チャン族(羌族)
- 朝鮮族
- チワン族(壮族)
- チンプオ族(景頗族)
- トウ族(土族)
- トゥチャ族(土家族)
- ドアン族(德昂族、旧称パラウン族)
- トーロン族(独龍族)
- トンシャン族(東郷族)
- トン族(侗族)
- ナシ族(納西族)
- ヌー族(怒族)
- ハニ族(哈尼族)
- バオアン族(保安族)
- プーラン族(布朗族)
- プイ族(布依族)
- プミ族(普米族)
- ペー族(白族)
- ホジェン族(赫哲族、ホーチォ族)
- マオナン族(毛南族)
- 満州族
- ミャオ族(苗族)
- メンパ族(門巴族)
- 蒙古族
- モーラオ族(仫佬族)
- ヤオ族(瑶族)
- ユグル族(裕固族)
- ラフ族(拉祜族)
- リー族(黎族)
- リス族(傈僳族)
- ローバ族(珞巴族)
- ロシア族(俄羅斯族、オロス族)
- ワ族(佤族)
中国政府と少数民族の間に関する諸問題
これらの少数民族には、各自の言語、文化を維持する権利が保証されている。特に各少数民族語を教授言語とする初等中等教育が原則保証されているが、実際は北京語以外による高等教育は認められず、また少数民族語を教授言語としても、各少数民族史の授業を認めないことが同化政策として問題視されることもある。また、少数民族の優先的な上級学校進学、公務員採用などのアファーマティブ・アクションも採られているとされ、この恩恵に与るために漢族が少数民族を詐称することが問題になっているという。
民族自決権
中国共産党は、発足当初、ソ連のコミンテルンの強い影響をうけ、「少数民族政策」としては、諸民族に対し、完全な民族自決権を承認していた。たとえば、中華ソビエト共和国の樹立を宣言した際には、その憲法(中華ソビエト共和国憲法)において、各「少数民族」に対し、それぞれ「民主自治邦」を設立し、「中華連邦」に自由に加盟し、または離脱する権利を有すると定めていた。
しかしながら、国共内戦に勝利し1949年に中華人民共和国を設立した直前には、政治協商会議の「少数民族」委員たちに対し、「帝国主義からの分裂策動に対して付け入る隙を与えないため」に、「民族自決」を掲げないよう要請、さらに現在では、各「少数民族」とその居住地が「歴史的に不可分の中国の一部分」と支配に都合の良い立場に転じ、民族自決権の主張を「分裂主義」と称して徹底的な弾圧の対象にするようになっている。
ウイグル
中国政府は成立直後の1950年ごろ、新疆ウイグル自治区に漢族を中心とする新疆生産建設兵団を大量に入植させた。そして当初人口7パーセントだった漢族が1991年には40パーセントになり、自治の主体たるはずのウイグル族は少数派に転落しつつある。漢族と、非漢族の経済格差が激しいとされる。その結果、新疆ウイグル自治区では、分離独立運動も高まっている。歴史上、西トルキスタンとの関係が深く、石油資源などが豊富なこの地を、中国政府は、武力を背景に分離独立を許さないかまえである。
チベット
1950年、中国政府は人民解放軍を侵攻させ、チベット全土を軍事制圧。
1955年~1959年に「中華人民共和国政府による併合」に抗議する運動(ラサ決起)が起こる。農業改革の失敗により、中国全土で数千万の死者を出したとされる大躍進政策の時期である。その後ダライラマはインドに亡命し、亡命政府を樹立。その後チベット自治区が設置され、中国の対チベット政策が苛烈になり、その後の文化大革命の影響も及ぶなどした。この時中国は、夥しいチベット文化の破壊・略奪とともに、チベット民族120万人の虐殺をおこなった。
その後も独立運動を行っていたが、米中国交回復以後、米国の支援が打ち切られたとされる。
少数民族関連書籍
中国55の少数民族を訪ねて
愛を伝える歌垣、病気治療のシャーマンの踊り、世界の始まりを歌う神話、多様な自然風土に育まれた独自の文化を求めて最奥地へ。55の少数民族すべて現地撮影による世界初の日中共同映像取材班の製作者が、暮らしに生きる芸能を踏査し、激変する中国の現在を伝える全記録。貴重な口絵・図版多数収録。
中国少数民族事典
55の少数民族の伝統や文化、自然環境、歴史、経済、社会組織などを、図表・写真を多用して総合的に紹介する。
色彩のコスチューム―中国55少数民族の服飾
世界のトップデザイナーに衝撃を与えた話題の書。世界のトップデザイナーが、今、最も注目している中国少数民族のコスチューム!本書はモンゴル族からジノー族まで55の少数民族服飾のすべてを、晴れ着から日常着にいたるまで、染織のデザインを中心に帽子、くつ、バッグ、アクセサリーなど装飾品もあわせてカラー図版184点を収録する。解説は日本語・英語、写真説明は中国語・日本語・英語で各民族ごとにわかりやすく紹介している。
深奥的中国―少数民族の暮らしと工芸
漢民族以外に55の少数民族が公認されている多民族国家中国。そのなか、中国西南地域に暮らす少数民族(チワン族・ミャオ族・イ族・ペー族・ナシ族など)の多彩な文化を紹介。2008年北京オリンピック開催など大きな変革期を迎えている中国の、特に少数民族が持つ文化に触れ、その奥深さを知る。カラー・モノクロの写真図版を多数収録。
中国少数民族 農と食の知恵
97~99年に静岡大学で行われた、「中国少数民族から学ぶ衣食住」をテーマとした学術調査の成果をまとめる。21世紀最大の課題である地球環境の問題を見据えながら、新しい農学のあり方を目指す科学的視点を重視する。
消滅の危機に瀕した中国少数民族の言語と文化
中国の少数民族・ホジェン族は文字を持たず、口頭伝承によってイマカン(英雄叙事詩)等が伝えられてきた。イマカンをホジェン語で記録して後世に残す。
中国の少数民族教育と言語政策
多くの少数民族を抱える中国における、国家が少数民族に対して行う教育・少数民族教育と、それぞれの民族が自らの言語や文化を維持するために行う教育・民族教育の実情を明らかにする。
中国少数民族の自治と慣習法
中国民族法制の全体的問題状況を視野に入れ、民族自治権について考察。立法自治権の実現には多くのハードルがあること、民族慣習法の存在とその意義をまとめ、少数民族の今後を左右するであろう西部大開発の問題点を論じる。
中国少数民族のむかし話
中国の少数民族のあいだに伝わる昔話には、風習の由来、とんち話、いましめ、冒険や変身の物語など各民族の文化や心を表すものがたくさんある。大地に根ざした素朴で陽気なファンタジー31編を収録。
現代中国少数民族詩集
中国の少数民族の人々が発表した文学作品をまとめる。北部草原地区、東北森林地区、新疆ウイグル自治区と周辺地区、チベット高原と周辺地区など地区別に編集。