黄酒は、中国に最も古くからある酒で、世界でも最も古い酒の1つである。四千年以上も前、中国人の祖先がはじめて醸した酒が黄酒といわれている。
黄酒は糯米(もち米)、粳米(うるち米)、黍(きび)などを原料にし、米作地方を中心に造られる醸造酒である。日本の清酒に相当する。製法は比較的簡単で、その代表的なものが紹興酒である。
酒質は優美で、独特の風味は国際的にも高く評価されている。長い歴史の中で積み重ねられた豊富な体験により、品質の良い酒を生み出した。
酒精度は黄酒の種類によって異なるが、12度から18度。酒の色は黄色~赤味をおびた黄色で、茶色のガラス瓶か陶製の容器に入っている。カメで三年以上長期熟成させたものは「老酒」(lǎojiǔ)と呼ばれる。
黄酒の原料は糯米(もち米)が主であるが、華北地方や東北地方では黍(きび)を使い、他に粟(あわ)も使われる。麹材料には麦麹を使うが、江南地方では米粉、辣蓼草、陳皮、肉桂などを酒薬として加えることもある。この酒薬は原料の糖化を助け、酵母の繁殖を促進する効果がある。
黄酒は飲料の他に、優れた調味料としても重用されている。中国南部では、日本の味醂(みりん)によく似た「糯米酒」が料酒(調味用の酒)と呼ばれて有名であるが、他の黄酒も中国全土で料理の風味向上のために用いられている。
中国の醸造酒には、黄酒のほかに紅酒と黒酒と葡萄酒があるが、黄酒以外はあまり普及していないので、黄酒は醸造酒の代名詞になっている。これに対して、醸造酒を蒸留してできる透明な酒を白酒(báijiǔ)という。
黄酒の特徴
- 中国は土地が広大なため、同じ黄酒でもその土地によって原料が異なり、糖化発酵剤も異なる。醸造技術もいろいろあり、それぞれ伝統的な方法により醸造され、品種が非常に多く、1つ1つに独特の風格がある。しかし数えきれないほど種類があっても、酒の色が黄色か、赤味をおびた黄色であることが重要で、それが黄酒と呼ばれる最大の理由である。
- 黄酒の条件をみたすには、醸造過程において澱粉の糖化、アルコール発酵、成酸作用、成酯作用などの生化学反応が同時に進行し、糖分の濃度が高くなく、酒精含有量が15%から20%であることが必要である。
- 麦曲、紅曲などの異なったカビを用いて醸造しても、黄酒には麹の味と香りがある。紅曲カビは高温に耐えられる糖化菌である。このカビは、はじめは白い菌糸であるが、成熟後は深紅になり、落ちつくと紅色になるところからそう呼ばれている。気温の高い福建省や浙江省の一部、台湾などでは、紅曲を用いて黄酒を醸造している。
- 南方の黄酒は酒薬を用いて醸造する。酒薬には多種多様の薬草が含まれているため、製品には体に有益な成分が豊富に含まれている。
- 黄酒の醸造発酵は、高温では腐敗しやすいため、低温で発酵させる。酒精発酵の微生物の保存には低温が適しており、黄酒特有の色、香り、味、形が形成される。
- 黄酒は、煎煮法か蒸煮法で殺菌すると永く保存できる。
- 黄酒は保存貯蔵中でも後熟作用があり、酒質がさらに良くなる。貯蔵するとき陶器の缸に入れ、口をぬかや粘土などで封じて洩れないようにし、後熟作用を進行させる。古くなればなるほど香りが良くなる。
- 貯蔵中に沈澱物を生じるが、酒質とは関係ない。それが黄酒の特徴である。
中国の人々が黄酒を造るのは、単に飲むだけではなく、漢方薬の重要な補助原料にするためでもあり、漢方では黄酒のことを「薬引」と呼んでいる。つまり、薬草を浸した後の黄酒を使って煮たり、焼いたり、蒸したり、炒ったり、炙ったりして、その効能を増大させる役目を果たしているのである。
また、黄酒は料理に欠かせない調味料でもあり、肉や魚などを料理するとき、ほんの少しくわえるだけで味がひときわ良くなる。
黄酒は気が遠くなるほどの昔から生産が続けられてきたが、工場の規模が小さいうえ、各地に分散していたため、酒質が一定していなかった。しかし、近年、それぞれの産地において醸造公司という会社組織がつくられ、大きな工場や貯蔵庫が建設された。さらに、その土地の伝統的な生産体験を系統的にまとめて醸造法を改善し、生産量を増やす一方、古い歴史的な名酒を復活、新生させて国内の需要にこたえ、また海外への輸出量も増えている。
原料と成分
黄酒の原料は糯米(もち米)、粳米(うるち米)、黍(きび)などの穀物である。特定の醸造工程において、酒薬、曲(麦曲、紅曲)、漿水(米を浸した水)に含まれている各種のカビ、酵母菌、細菌などが相互に作用して醸成される。低温の原汁酒(カスが残る酒のこと)で、圧搾酒(搾った酒)である。
酒液の中には糖分、デキストリン、有機酸、アミノ酸、グリセリン、エステル、微量のエチルアルコール、ビタミンなどが含まれている。それらの成分の配合、変化、形成により、濃郁な香り、コクと旨味のある甘味など、多種多様でユニークな風格が醸しだされる。
黄酒の分類
産地、原料、風味などから四種類に分けているが、定説はない。
- 南方糯米粳米黄酒…長江以南の地区で糯米、粳米を原料に、酒薬と麦曲を糖化発酵剤にして醸造する黄酒で、この種類がもっとも多い。
- 紹興酒
- 倣紹興酒…紹興以外の土地で紹興酒の製法をまねて造る黄酒。
- 喂飯酒…原料をいくつかに分けてはじめに淋飯法で酒母をとり、残っている新原料をくわえて継続発酵させる製法の黄酒。寧波黄酒、嘉興黄酒、江陰黒酒など。
- 無錫老廒黄酒…糯米を原料にして攤飯法を用いて醸造する黄酒。原料を分けて酒母をとるが、紹興酒と似ているようでも微妙に製法が違う。しかし漿水を使うところはよく似ており、その漿水を十分に煎じて殺菌して投入する。
この酒の特徴は、生産中に二回にわたって糟焼をくわえることである。糟焼というのは、酒糟を蒸留してとった白酒のことである。糟焼を第一次発酵後に1回、缸で貯蔵中に1回くわえ、1年から3年貯蔵する。酒精度は15度以上である。 - 丹陽甜黄酒…百花細雨や醇醸桔酒などと呼ばれており、糯米を用いて淋飯法で醸造し、主発酵と後発酵を同じ容器の中で進行させる。後発酵の期間は20日間以上で、終わるとすぐに搾って酒をとる。10日以上かけて澄ませているあいだにも発酵が続いていて、煎酒(火入れ)のとき酒精度50度の白酒を約12%の比率で缸に入れ、さらに漢方の生薬である陳皮(ミカンの皮を干したもの)を一片ずつ入れる。缸口まで水の中に沈めて加熱しながら、水面から出ている缸口にも加熱する。煎酒が終わると、この酒独特の甘い味が鮮やかにあらわれ、特殊な風味が増すという。酒精度13度、糖分12%、酸度0.5%以下。江蘇省の特産品である。
- 甜水酒…醸造した甜酒を一定の期間放置しておき、カスを搾ったあと再び水をくわえて調成し、煎酒して酒にする酒精度の低い黄酒である。日本の甘酒に似ており、酒の色が乳白色をしているところから、甜白酒とも白酒、水酒ともいわれている。中国では江淮以南の地区で生産されているが、製法がそれぞれ異なっている。
南方糯米粳米黄酒をつくる際の副産物としては以下のようなものがある。- 糟焼…酒、エステル類、未発酵の澱粉質などがまだ残っている酒を搾ったあとの糟を缸に入れて密封し、1か月前後寝かせてから取り出して蒸留した白酒のことである。濃い黄酒の糟の香りがし、味はまろやか、日本の粕取焼酎に似ている。
- 酒汗…煎酒中に立ち上る酒の蒸気を冷却してとった酒のこと。糟焼よりさらに香りが濃く、味もいちだんとまろやかで、うま味がある。
- 香糟…搾ったあとの糟に少量の食塩をくわえ、缸に密封し、とくに香りが濃い酒糟をつくり、それに肉や魚、卵などを漬けたもの。日本でいう粕漬けである。
- 福建紅曲黄酒…糯米か粳米を原料に、米と紅曲カビを糖化発酵剤にして醸造する黄酒である。
- 福州紅曲黄酒…福建紅曲黄酒の中ではもっとも有名で、数多くの優良酒や地方名酒を生んでいる。
- 閩北紅曲黄酒
- 福建粳米紅曲黄酒
- 浙江紅曲黄酒…これは烏衣紅曲、黄衣紅曲、あるいは紅曲と麦曲とを糖化発酵剤にして醸造する黄酒である。
- 温州烏衣紅曲黄酒
- 黄衣紅曲黄酒
- 金華踏飯黄酒
- 北方黍米黄酒…淮河以北から華北と東北地区に多く、黍米(とうもろこし)か糯小米(もち粟)を原料に、米麹からつくった麩曲を糖化発酵剤にして醸造する黄酒である。
- 山東即墨黄酒
- 山西黄酒
- 蘭陵黄酒
この他、黄酒には「大米清酒」という日本酒があり、中国東北地方や山西省などで細々と醸造されており、種類も吉林清酒と即墨特級清酒の2種類がある。即墨特級清酒のほうは、黍米(とうもろこし)を原料にしている。
また、黄酒は、直糖分によって4種類のタイプに分類できる(直糖は繊維以外の甘みを感じる糖類。酒ではほとんどがブドウ糖)。
- 黄酒の直糖分による分類
黄酒の種類と造り方
黄酒は、日本酒と同様に、でんぷんの糖化とアルコール発酵とを同時に行う並行複発酵によって造られる。ただし、糖化のために用いる麹の種類が異なる。
乾型黄酒の製法が、基本となる。中国では、このタイプの黄酒がもっとも多く飲まれている。半乾型黄酒は、乾型黄酒の原料を増量して、濃くした酒である。
半甜型黄酒と甜型黄酒は、仕込み開始時にアルコールを加えるので、みりんと同様に甘くなる。甘くなる理由は、酵母は酒精度が20度付近になると糖を消費してアルコールを生成する発酵を停止してしまい、それ以降は麹によってでんぷんの糖化だけが継続するからである。
乾型黄酒
酒母に、漿水と水、蒸した糯米と麹を加えて造る。10日間の1次発酵の後、小さめの甕に分け入れ、蓋(ふた)をして、屋外で3か月弱の2次発酵をする。醸造直後の酒精度は約16~17度。これを濾過(ろか)した後、80~90℃に加熱(煮酒)して殺菌し、甕に詰める。その口を蓮の葉と油紙で覆い、素焼きの皿で蓋をし、竹皮で包み、粘土で塗り固める。
半甜型黄酒
半甜型黄酒は、仕込み水の代わりに乾型黄酒を使って仕込んだもの。この製法は、アルコール分を増すために工夫された、古くからある方法である。この製法の酒を、昔は「重醸酒」、「酎」(焼酎の字源)、「醇酒」などと呼んでいた。直糖分とエキス分が多い濃厚な酒になる。
酒母の造り方
黄酒とその酒母は、地域によって原料と麹が異なり、製法も地域や工場によって異なっている。麹に含まれるカビや酵母が地域・工場によって異なるので、香りも千差万別になる。典型的なものを中心にして、造り方を説明する。
原料
次のものを原料として造る。
- 糯米(もちごめ)…山東省から華北にかけては、黍米を用いる。江蘇省・福建省の一部と東北地方では、粳米を用いる場所もある(清酒になる)。
- 麦麹…小麦で作った麹。クモノスカビなどを含む。米粉とヤナギ蓼(たで)で作った小麹や、米麹を使う地域もある。
- 酒薬…粳米粉とヤナギ蓼で作った、酵母や乳酸菌の種
- 水
- 漿水…糯米を浸した後の水
糯米を精白して水に浸漬しておくと、乳酸発酵する。1~2週間たったら糯米を取り出して蒸し、原料とする。浸漬水も、“漿水”と呼んで原料として用いる。乳酸が腐敗を防ぎ、酒にコシ(酸味)を加える。
その他の原料として、上記の原料から造られた酒を用いる。
- 乾型黄酒…半甜型黄酒に用いる。
- 酒粕から造った焼酎(粕取り焼酎)…甜型黄酒に用いる。
酒母
酒母は、たとえば次のようにして造る。
- 糯米を蒸す。
- 蒸した糯米を、底がすのこになっている桶に入れ、冷水をかけて冷ます。
- 酒薬をまぶし、大甕の内部の側壁に塗りつける。
- 3日ほどででんぷんが糖化し、底に甘酸っぱい液となって溜まる。
- 麹と水を加え、ときどき混ぜる。これを繰り返す。
そのまま発酵させて黄酒の酒母(母体)とする。酒精度は低い。